政府は2025/11/12に経済財政諮問会議を開催し、令和7年度補正予算も含めた今後の予算編成の指針となる「総合経済対策に盛り込むべき重点施策(以下、「重点施策」)」をとりまとめて公表しました。

当該資料および現時点の各種情報を基に、今後の中小企業施策および令和7年度補正予算動向について検討しました。

尚、当記事は、あくまでの現時点の情報に基づく筆者の個人的な見解であり、内容の正確性について保証できるものではございません。情報の活用については、読者様ご自身の責任でお願いいたします。

 

分析1:「総合経済対策」が示す中小企業向け補助金の方向性

 政府・与党によって策定が進められている「総合経済対策」は、従来の「危機対応型」のバラマキ的な支援から、明確な国家戦略に基づいた「危機管理投資・成長投資」への構造的な転換を示唆している。公開された「重点施策」を基に、政策意図、産業界への波及効果、そして中小企業が直面する新たな補助金・支援環境について、検討を行った。

 その結果、政府が「供給力の抜本的強化」と「賃上げ環境の整備」を車の両輪として位置づけている点が浮き彫りになった。特に中小企業施策においては、単なる延命措置ではなく、省力化投資による生産性向上、価格転嫁の強制力強化、そしてM&Aや事業承継を通じた業界再編を強く促す意図が読み取れる。AI・半導体、造船、量子技術といった最先端分野への「官民連携の戦略的投資」が前面に押し出される一方で、地域経済を支える中堅・中小企業に対しては、「労働供給制約社会」を前提とした「稼ぐ力」の強化が厳しく求められる。

 そこで中小企業経営者は、補助金の採択要件が「賃上げ」や「省力化」の達成度合いに強くリンクしていく傾向や、特定の戦略産業(サプライチェーン強靭化に資する分野)への支援が手厚くなる一方で、汎用的な支援は縮小・選別化されていく「選択と集中」が進行することを強く意識する必要がある。

分析2:中小企業・小規模事業者施策の核心は「賃上げ」と「省力化」

  政府の経済対策の核心は、物価高を上回る持続的な賃上げの実現にある。「重点施策」の「2.総合経済対策について」「(1―2)分野横断的課題」の「⑦賃上げ環境整備」および関連セクションには、中小企業を取り巻く環境を劇的に変化させる施策群が網羅されている。 

1. 「省力化投資」への集中支援

 注目すべき具体的施策は、「人手不足が深刻な12業種を中心に、省力化投資促進プランに基づき、支援策を充実する」という記述である。これは、現在経済産業省が推進している「中小企業省力化投資補助金」の枠組みを指していると考えられるが、令和7年度に向けてこの規模と対象がさらに拡充される可能性が高い。

○背景と狙い: 人手不足は景気循環の問題ではなく人口構造上の構造的な制約である。「労働供給制約社会」という言葉が資料中で使われている通り、政府は「人を増やす」ことよりも「人がいなくても回る」仕組みへの転換を急いでいる。
○カタログ型への移行: 従来の「ものづくり補助金」のような、高度な事業計画書を要するオーダーメイド型の支援から、簡易に申請可能な「カタログ型」へのシフトが進む。清掃ロボット、配膳ロボット、自動精算機、スチームコンベクションオーブンなど、汎用的な省力化機器がカタログに登録され、それを選ぶだけで補助が受けられる仕組みが強化される。
○プッシュ型支援の強化: 「生産性向上支援センター(仮称)」を全都道府県に設置し、商工会・商工会議所と連携した「プッシュ型伴走支援」を行うとしている。これは、自ら情報を取得しに来ない低生産性企業に対しても、能動的にアプローチし、設備の入れ替えや業務改善を迫る姿勢の表れである。

2. 最低賃金引上げと地域別支援

「重点支援地方交付金」を拡充し、中央最低賃金審議会の目安を超える賃上げを行った企業に対する支援を後押しする方針が示されている。
○地域の実情に応じた支援: 全国一律の制度だけでなく、自治体が独自に上乗せできる予算措置が講じられる。例えば、特定の県において、国の最低賃金上昇率を上回る賃上げを実施した企業に対し、設備投資補助率を嵩上げする、あるいは定額の奨励金を支給するといった施策が想定される。

3. M&Aと事業承継:「強い中小企業」への脱皮

資料には「労働供給制約社会の中堅・中小企業の『稼ぐ力』強化戦略(仮称)」の検討に着手するとある。ここで重要なキーワードは「事業承継・M&Aの支援強化」である。政府は、小規模なまま生産性が低い状態で存続するよりも、M&Aによる規模の拡大や、意欲ある経営者へのバトンタッチを通じて「強い中小企業」へ生まれ変わることを推奨している。
○事業承継・引継ぎ補助金: この文脈において、M&A時の専門家活用費用や、統合後の設備投資(PMI)を支援する補助金は重要施策として継続・拡充されると考え、譲り受け側が賃上げを行う場合の優遇措置が強化される可能性がある。

分析3:戦略分野別詳細分析:サプライチェーン強靭化とイノベーション

「総合経済対策」の中核をなすのは、特定重要物資や先端技術分野への集中投資である。中小企業であっても、これらのサプライチェーンに食い込むことで、大型の支援を受けられる可能性が高まる。

 ○AI・半導体:基盤強化と社会実装の両輪
 ○造船・海洋:地域経済と連動した大規模投資
 ○宇宙・航空:1兆円基金とデュアルユース
 ○エネルギー・GX(グリーントランスフォーメーション)
 ○バイオ・ヘルスケア:創薬基盤と「攻めの予防医療」

補助金ナビ見解1:補助金獲得の新たな「定石」

今後、中小企業が政府支援を獲得するためには、以下の要素を事業計画に組み込むことが「定石」となるでしょう。

○賃上げコミットメント: 補助金申請要件としての賃上げは、もはや努力目標ではなく必須条件です。地域別最低賃金を大幅に上回る計画を提示できるかが鍵となります。
○省力化・生産性向上: 単なる設備の更新ではなく、それによって「何人分の労働力が削減できるか」「時間当たり付加価値額がどれだけ向上するか」を定量的に示す必要があります。カタログ型補助金の積極活用が推奨されます。
○国家戦略との整合性: 自社の事業が「経済安全保障(サプライチェーン強靭化)」「GX(脱炭素)」「DX(デジタル化)」のいずれかの文脈に沿っていることをロジカルに説明するストーリー作りが求められます。
○パートナーシップと連携: 「パートナーシップ構築宣言」の実施や、地域金融機関・支援センターとの連携実績が、企業の信頼性を担保するパスポートとなります。

補助金ナビ見解2:中小企業にとってのリスクとチャンス

「労働供給制約社会」において、現状維持は緩やかな衰退を意味します。政府の施策は、変化を恐れない企業には「投資の予見可能性」と「資金」を提供する一方で、変化に対応できない企業には市場からの退出(またはM&Aによる吸収)を促すという、冷徹な側面も併せ持っています。

経営者は、公表された重点施策の行間を読み解き、自社が「危機管理投資」や「成長投資」の担い手として認知されるよう、早期に経営戦略の舵を切る必要があります。特に、半導体、宇宙、造船、エネルギーといった戦略分野のサプライチェーンに位置する企業や、地域の雇用を支え賃上げを牽引できる企業には、かつてない規模の追い風が吹くことになるでしょう。

 「総合経済対策に盛り込むべき重点施策」原文はこちら(内閣府)

補助金ナビでは、国の中小企業向け補助金予算の大部分を占める補正予算の動向を今後も注視し、お伝えしてまいります。

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オフィスマツナガ行政書士事務所(認定経営革新等支援機関)所長・行政書士 松永敏明